乳児の夜泣きは、日本では常に育児の悩みのトップにあげられる課題であるにもかかわらず、これまで有効な対策はなされてきませんでした。しかし女性の社会進出、産後の早期の仕事への復帰率の増加、育児分業化が進むにつれて、科学的根拠に裏付けされた有効な対策がより強く求められています。これに対して女性の社会進出が早くから進んでいたスウェーデンでは、ノーベル医学・生理学賞の審査本部として著名なカロリンスカ医科大学と、イタリアの小児科病院による共同研究が進められた結果、「乳児疝痛」が激しい夜泣きにつながっていることを明らかにしました。乳児疝痛とは乳児が発育途上で腸内の細菌バランスを崩すことに起因する強い腹痛が原因となり、“1日に3時間以上”激しく泣く日が“週に3日以上”あり、その症状が“3週間以上”続く状態と定義されています。そして新生児全体の約26%が乳児疝痛と診断されているという報告があります。*15
乳児は生まれてから数カ月の間で免疫を成長させていきます。その過程で腸内フローラが大きな役割を果たしている可能性があります。そこでプロバイオティクスを代表するロイテリ菌の摂取が疝痛児の腸内環境を調節して、乳児疝痛による夜泣き時間を減少させるという仮説のもと、臨床試験が行われました。
試験に登録した約1週間前(6±1日前)に1日3時間以上泣く日が週3日以上認められ、母乳のみで育てられた乳児83人のうち、41人にロイテリ菌(108CFU)を28日間毎日1回、42人には乳児疝痛に広く使用される消化管ガス駆除薬(シメチコン30mg)を28日間毎日2回投与し、夜泣きの持続時間などについて両親に記録してもらいました。*16
ロイテリ菌を摂取した結果、7日目に1日当たりの夜泣き時間に有意な減少が認められ(p=0.005)、14・21・28日目にはシメチコン投与グループと比較して、夜泣き時間に有意な差が確認されました(p<0.001)。さらに試験終了時の28日目の夜泣き時間は、シメチコン投与グループが145分(範囲:70~191分)だったのに対し、ロイテリ菌投与グループは51分(範囲:26~105分)にとどまり、94分もの差が認められました。そして1日平均の夜泣き時間が50%以上減少した乳児は28日目で、シメチコン投与グループ3名(7%)に対して、ロイテリ菌投与グループでは39名(95%)に上りました。
この研究結果を報告した研究者は、乳児疝痛に対するロイテリ菌の作用機構は推測の域を出ないとしながらも、ロイテリ菌は腸内環境の抗炎症反応に関与し、免疫応答を調節することで乳児の腸運動を調節している可能性があると指摘しています。また乳児疝痛はアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギーとの関連が指摘されていますが、この試験の被験者に含まれたアトピー性皮膚炎の高リスク患者(n=39)や、アトピー性皮膚炎の家族歴がない乳児(n=44)でも14・21・28日目で有意な改善が認められたことから(アトピー高リスク患者:p=0.001、アトピーの家族歴がない乳児:p<0.001)、本研究の報告者はロイテリ菌の摂取はアレルギーの有無に関わらず、乳児疝痛を改善すると考察しています。
*15 Rosen LD et al. Pediatr Rev. 2007 Oct;28(10):381-385.
*16 Savino F et al. Pediatrics. 2007 Jan;119(1):e124-30.